吉野林業発祥の地である川上村で川上村木匠塾が産声をあげて20年目の節目を迎えました。人生で例えるなら20歳は成人式ですが、近年の川上村木匠塾の活動プログラムや完成した制作物をみると、川上村木匠塾も者レベルから成人の領域に入りつつあると感じています。この20周年の節目に、これまでの活動の足跡を広くご高覧いただき忌憚のないご意見を頂戴いたしたく「川上村木匠塾20年記念誌」を企画・発刊いたしました。 川上村木匠塾は、学内の座学だけでは学び得ない、林業の間伐・流通のあり方や木材を使った設計・施工プログラムなどを通じてリアルに木材・建築・ものづくりを深く考え実践してきたプロジェクトベースドラーニングです。参加校は関西の建築系学科のある大学や専門学校(現参加校:大阪芸術大学、大阪工業大学、近畿大学、滋賀県立大学、奈良女子大学)の教員有志と学生、そして川上村役場と共同運営してきました。自然豊かな場所で、実学としてのものづくりを学びながら、価値観の異なる学校の若人が協働し、時には助け合い、時にはケンカをして豊かな人間性を育むことも目的にしています。
20年間で約800人(延人数として約1,400人)の若人がこのプログラムを修了し、修了生の多くは建築業界を中心に社会の第一線で活躍しています。そして、塾生たちが制作してきた建築やプロダクトの多くは川上村のみなさんや観光客の方々に利用されています。
当記念誌は、川上村木匠塾の20年間の活動を振り返るとともに、2月10日〜11日に行われた20周年記念の事業を記録に留めるものです。フォーラム、コドモク、大交流会、村長と語る会、を報告しています。特にゲストを交えて行われた2つのシンポジウムについては全内容を再現しています。川上村木匠塾関係者以外の方でも、新たな気づきや未来への可能性が見いだせる内容ですので、是非ご一読ください。インタヴューコーナーでは、役場の歴代木匠塾担当を代表して森口尚さん(現吉野かわかみ社中局長)、前塾長の山根周先生(現関西大学准教授)、歴代代表幹事から宮野和成さん木下潤一さんに登場いただき、木匠塾に関わられていた当時のことなどを振りかえりながら、川上村木匠塾への期待などを語っていただいています。
川上村木匠塾年表をみていただくと、活動や作品の傾向が変わっていくことがお判りいただけるかと思います。1~5年目までは実験期としてどのような活動プログラムを展開していくべきかを模索をしていました。主たる活動地も人里はなれた山上などで、野営しながらの活動はある意味おおらかでした。作品も仮設性のものが多かったといえます。不便ではありましたが自然に包まれる1週間は若人の野生の感性を呼び覚ましました。5~9年は発展期といえます。山上から吉野川近辺の人里に降りてきて地区の公民館などをベースにしながら村民に役立つものを制作しはじめ、間伐材を活かした若人ならでは制作物が徐々に生まれはじめます。10年目からは旧トントン工作館を「川上村木匠館」として使用させていただけることになりました。木工加工の設備が整ったベースキャンプを得て、活動と作品のレベルも向上してきています。特に塾生たちが林業体験で間伐した材をストックし、その材を自然乾燥させたうえで次年度以降の制作物に使用する循環が生まれたことは木材の流通を考える教育プログラムとして特筆すべきものといえます。更に、近年では過去の作品のメインテナンス活動なども定期的に行い作品の使用年数を更新させています。
この記念誌では誌面が限られ写真も小さいので、活動の紹介は一部に留まりますが、林業の村で木材とふれあい格闘しながら制作物を完成させ、価値観が異なる学校の若人が切磋琢磨しながら成長していく熱量を少しでも感じていただければ幸いです。
この活動が20年間継続できたのも一重に栗山忠昭村長はじめ川上村役場のみなさまの手厚いサポートがあってのことです。そして制作に伺った地区などで村民の皆様の温かいご理解とご支援があってのことです。ここに改めてお礼を申しあげます。
2月11日に行われた「村長と語る会」では、塾生OGOBと川上村とのネットワークをこれまで以上に意義深いものにするアイデアを話し合いました。今春からは、そのアイデアを実施に移していきます。そして、21期生たちも3月から川上村や各学校内で活動を開始します。気持ちを新たに次の25年を目指してより良い活動を展開してまいりますので、引き続き、みなさまからのご支援や叱咤激励を頂戴できれば幸いです。よろしくお願い申し上げます。
川上村木匠塾塾長 寺地 洋之